痛ましさと腹立たしさと…

大阪府池田市の小学校児童殺傷事件


2001.6.9記(一部改訂)

  まさかとおもってましたが、残念です。大阪の小学校刺殺事件。もう事件の説明の必要がないぐらい、辛い思いで報道を見ている方が多いと思います。幼くて命を絶たれた大勢の子どもたち、そしてその家族のことを思うと、自分が同じ立場だったらと思うと、痛ましくやりきれません。インタビューされ淡々と語る、助かった子どもたちの姿さえありましたが、かえってやりきれない思いです。この子たちも、外傷性ストレス障害に苦しむであろうと思うと、せめて行政には、いち早い精神科による心のケアなどの対処を願ってやみません。

  よりによって加害者は精神科の通院歴があるという30歳代の男。今回の残虐な行為が、精神病による症状と因果関係があると確定したわけではありませんが、いずれにせよ、今回の事件のあまりもの衝撃度を考えるにつけ、今後、精神科や精神医療利用者とその家族への風当たりの厳しさを予感せざるをえません。

  悲しみと虚無感と、そして、同時に腹立たしさを感じています。いったいどうしたらいいのでしょうか。心のやりばがありません。今のこの行き場のない気持ちをどうすればいいのか、、、それでも、自分のこの感情的な憤りと、やりきれない思いは、きちんと見極めていくことが必要だと思います。

  怒りは加害者の男へ向けられたものもありますが、それと同じぐらい、いや、それ以上のものを、報道のあり方があまりにも問題点を抱えていることに対して感じています。

  まず、いち早く一斉に精神科の通院歴を明らかにしているということ。容疑者の略歴として、通院歴が事実であるにせよ、果たしてそのことが今回の事件との間にどの程度の因果関係があるのでしょうか。精神医療の素人の報道機関が、わずか半日で、なぜこれを確信できるのでしょうか。これは、現段階での限られた情報での私見ですが、「精神安定剤」10錠(10回分?)の服薬による薬物中毒と、「死にたくても死にきれないので死刑にしてほしかった」との容疑者の供述。これは精神病による症状というよりは、なにか人生にゆきづまったときにおこりうる自暴自棄と考えるほうが適切です。一方で、仮に精神病の急性症状などが引きがねであるとしたら、内部の議論のないままなし崩し的に実名報道を行った責もとわれます。

  今回、あえて個別の名称を挙げて疑問を投げかけようと思います。夕方6時のフジテレビ系列のニュースにて元最高検検事の土本武司が確信に満ちた顔をして語っていました。「危険な精神障害者を隔離する必要がある」と。おなじく12日6時の報道では、木村太郎キャスターが、議論は必要ないという趣旨のもと、「社会全体の安全」のためにすみやかな保安の推進をうたっていました。ちなみにフジ産経グループは、精神医療に関わらずマイノリティに配慮のない安易な強硬路線・主義が以前から目に付くと漠然と感じていましたが、今回にいたっては私は強い確信を抱きつつあります。加えて6月12日の午前中の日本テレビ(読売)系列のワイドショー「レッツ」では、河上和雄という元検事や、町沢静雄(立教大学教授)が、インタビューの場で、同様の発言をおこなっていました。この番組では司会の男性キャスターや他の精神科医コメンテーターによって、「精神障害者が全国に200万人いるが、犯罪率は一般の健常者の10分の1である」という適切なコメントは添えられていましたが。

  一部コメンテーターの凝り固まった安易なコメント。この人は犯罪抑止という発想が一人歩きをして、精神医療の実態に全然思いがいっていないと言って過言ではありません。自らのたった30秒のコメントが、どれほどの間違った偏見と差別を生み出すのか、その重大性に、もっと想像を向けて欲しいと切に願います。そして、こういう人をコメンテーターにたびたび取り上げる報道機関の姿勢には、疑念の気持ちをいただかざるをえません。

  以下のことは、他報道機関にもいえることです。即時性だけを神聖視してしまっている報道制作。これまで批判されてきた報道のありかたに、自分たちの矛盾に気が付いているはずなのに、まったく何も改革してこなかったのでしょうか。近年こういった犯罪が増加していると喧伝するなら、なおさら、今回のような場合の報道がどうあるべきか、議論とマニュアルの必要があったのではないのでしょうか。これまでなにも構築することなく、なし崩し的に時間だけにせまられて、不確かな情報をちりばめることしかできないのでしょうか。

  事件発生当日の夕方のとある局の報道は、容疑者に「精神分裂病」罹患歴を言っていました。しかし先ほどのテレビ朝日系列のニュースステーションでは、「人格障害」という名称を報道していました。流れる報道を聞くのが精一杯で現段階でのリソースが明らかではありませんが、仮に警察発表によるものにせよ、いやそれだからこそ、その確実性を吟味せずに、安易に病名を明らかにすることは適切なことではありません。そもそも一つ一つの病名自体が、多様な要素があって明確に定義しがたいものです。そして何より、前述のように、精神科適用疾患歴との因果性がなんら明確になっていません。

 

■仮に精神科適用疾患との因果性があるとして、こういった事例の報道にかんしてマスコミ(と行政)に望むこと。

一、仮に今後、通院歴との因果性がありうると判明した場合、このような衝撃的な事件によって、すべての「精神障害者」に対する、偏見と差別を助長させないでほしい。精神科に対する紋切り型報道をやめて欲しい。

一、理解して欲しいこと。精神科医療が他科よりもはるかに高度の知識が求められているにもかかわらず、科学レベルはまだ入り口にさえ達していないこと。そしてこの分野の医学の進歩を疎外するものとして、社会的偏見という逆風が影響しているということ。

一、あやまった報道の仕方によって、精神科あるいは精神医療利用者に対する偏見を助長することは、犯罪被害者の救済をも阻みます。犯罪にあった心的外傷に対して、当事者家族によるケアが大きな支えになります。これと同時に、私たち社会が公的な扶助として、被害者を心的外傷ストレス障害PTSDから救済するためには、精神医療の望ましいケアと基盤となる多様なシステムの進歩が必要です。それを支えるのが、偏見なき社会の支援と、行政による福祉政策です。

一、今回も為されていますが、節度のない取材によって、犯罪被害者のプライバシーをむやみに侵害したり、さらなる外傷を与えないで下さい。報道機関は、自分たちの取材行為を、非常に「公共性」の高い事件であるからだとか、本来あるべきマスコミの「本懐」をとげるためだと正当化します。しかし、その「公共性」や「本懐」とは、かなりいかがわしいものです。たとえば、今日の午前中のフジテレビの「ウォッチャ」というワイドショーでは、事件の重大性や悲劇性を訴えながら、まったくふざけたことに、10分おきぐらいに、大リーグの野球中継を割り込ませるという、不誠実さきわまったものでした。マスコミのかたる「公共性」とは恣意的なことも多く、被害者や関係者にとってはやりきれないだろうし、見ている私も非常に不快を感じる形態のものでした。盲目になって行う取材攻勢が、被害者に2度目の外傷体験をおわすのは周知のことです。

一、「危険な精神障害者」というレッテルづくりによって、「触法精神障害者」の議論に、安易な隔離論をもちだすことをやめてください。私たちはハンセン病の国家賠償訴訟によって、社会から安易に人間を追放することが、取り返しのない惨禍を招くことを学んだばかりです。過ちを繰り返して、再び歴史を汚さないでもらいたい。

一、ふたたび取り戻すことのできない命と人権を考えるなら、被害者にとって例外はありません。しかし報道がそれに便乗して、単一の事件をただ無責任に不当に増幅させることが、精神医療利用者全体にたいする差別と偏見、そして、非生産的な憎悪をも増幅させます。せめて今、記事や報道に以下の一言を必ず加えてください。痛ましい事件にもかかわらず、<精神障害者の大多数は、犯罪とは無縁>ということを。
*この項目に関して、ちょうどこの文章の初版を著しながら、6月9日に拝見したTBS系列のニュース23では、コメンテーターによって番組冒頭で、この趣旨の適切なコメントが添えられていました。

一、番組や記事のコメンテーターを、元検察官や犯罪心理学・犯罪精神医学の専門科に求めることは、誤った報道の危険性が高まります。これらの職業や学問の本来的性質を、これらが対象とする領域についてを想像してみてください。「不可解で凶悪な事件が起きると、マスコミは精神科医という識者を登場させ、コメントを求める。(その意図は、)あれは精神異常=頭がおかしい人間の犯罪だ、と。一般人の不安をなだめるための、この「正常-異常」の線引きは、あまりにも安易と言っていい(『こころ」はどこで壊れるか』洋泉社、参照)」。
  コメントを求めるべきは、精神医学の専門知識を備えつつ、より広い視野の社会観を持つ者です。そしてさらに、精神医療利用者・家族、あるいはこれらの人物が構成する関連団体・施設の構成員や職員です。そして、タブーなき議論の礎のためにこそ、彼らに多くの時間を提供することが必要です。

一、この痛ましい出来事を繰り返さないための所策を、司法に委ねるべきという主張は偏狭に陥りかねません。仮に精神的な病が、この事件の背景として直接結びつくとするならば、なおいっそう医療の専門的な叡智に委ねる必要が生じます。

最後に、凄惨な事件が起きると必ず議論になります。

再犯をどうやって防ぐのか。凄惨な事件をどう未然に防ぐのかが。

それならば、問いたい。

「こうういう事件が起きると、精神障害者は危険だという偏見を、なぜ社会が強めることになるのか」。

このことがほとんど議論にならないのはなぜでしょうか。

この現状がもたらす影響について議論が至らないことが、私たちの社会に、いったいかなる帰結をもたらすのでしょうか?

 

*6月12日追加:その後の情報をみりかぎり、実際、容疑者の凶行は精神病の症状との因果関係がはっきりするどころか、むしろ、精神病をかたった詐病の疑いまででてきているようです。もしそうだとしたら、初日からあたかも精神科通院歴との因果関係があるかのような報道をしてきたマスコミは、すくなくとも精神医療関係者・本人・家族に対して、どのような責任をとるのでしょうか?

*とある地方新聞紙の記者の方からいただいた情報では、精神医療利用者のなかで、今回の報道や社会情況が影響して、鬱症状の併発や悪化で実際に二次被害が生じているというお話です。まったくやりきれません、このような場合の責任の所在というのはなんともできない。唯一、同じ「マスコミ」の中に、周辺の社会的マイノリティを忘れていないマスコミ関係者の方もおられることがだけが唯一の救いです。


■日にちがすぎて、報道の場では冷静なコメントをする人、あるいは適切な人選をおこなっていると思われる例もでてきました。いくつか列挙していこうと思います。

○竹内知夫(神奈川県の愛光病院院長)
  6月12日午前のテレビ朝日系列「モーニング」にて。「被害にあわれた方には気の毒な事件だと思う。ただ、このことだけで精神障害者は何をするかわからない、危険だと、広くとられてしまうことに危惧している」(しかし、名前を忘れたのが、ここの番組にも「精神障害者は危険でないの嘘」という誤った事実を唱えている人がいた。)


■ところで、マスコミが作り上げた世論や「社会防衛」という名分のために、精神障害者に対して反民主的な政策決定の動きが、政治の場で強まってきているようです。小泉総理大臣の発言にさえその一端がうかがえますし、これについての議論のスペースが今はありませんが、首相官邸をはじめ、法務省厚生労働省、国会議員、日本弁護士連合会等に個人でメールやFAX、電話等で、みなさんなりの意見あるいは抗議の声を、直接送る必要があると思います。国会議員→たとえば、山崎拓(自民党) - 同リンク集(自民多数) - 白川勝彦など。無数にあって手作業では無理なのでこんな風にして探してください。

<メールアドレス>

法務省  webmaster@moj.go.jp  FAX:03-3592-7393
     政策評価に関するご意見など E-mail:
hyouka@moj.go.jp

NHK:     announ@www.nhk.or.jp
日本テレビ: 
admin@ntv.co.jp  pls1toko@ntv.co.jp
TBS:     
houtoku@best.tbs.co.jp  n23@sol.dti.ne.jp
テレビ朝日: 
n-station@tv-asahi.co.jp
関西テレビ: 
news@ktv.co.jp

毎日新聞:  simen@mbx.mainichi.co.jp
日経新聞:  
webmaster@nikkei.co.jp
朝日新聞:  
tokyo-koe@ed.asahi.com
産経新聞:  
u-service@sankei.co.jp
読売新聞:  
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時事通信社: 
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共同通信社: 
feedback@kyodo.co.jp

週刊現代:  wgendai@kodansha.co.jp
週刊ポスト: 
editorial@weeklypost.com
週刊文春:  
bunshun@ymail.plala.or.jp
週間新潮:  
shukan@shinchosha.co.jp
中日新聞:  
webmaster@chunichi.co.jp
日刊スポーツ:
webmast@nikkansports.co.jp
スポニチ:  
customer@sponichi.co.jp
日本フリージャーナリスト協会: 
sunra@jeans.ocn.ne.jp
ネット記者クラブ:
webmaster@nkc.s-pr.com

(関係ないと考えている方も、あなたやご家族がいつ精神疾患を病み、医療の利用者になるかわかりません。飛躍した発想かもしれませんが、社会の安全やハンディキャップのフォローをすべて国家にまかせ、精神障害者との関係を絶つような冷たい人間関係こそ、事件の間接的な背景ともいえる殺伐した社会を作り上げてあげているようにも思います。)

マスコミがかって気ままに報道する影で、もう一つの「犯罪被害者」がつくられていることに、ちょっとでも思いを馳せていただけると幸いに思います。


ご意見お寄せ下さい。また情報提供もお願いします。差別を助長するだけの誤った報道のあり方に、注視していきたいと思いますが、一つ一つの報道を追うには、個人の力では限界があります。皆さんが講読している新聞や、目に触れる報道等について、問題あると思った報道・適切だと思った報道について、具体的にソースを挙げての情報提供をいただけると幸いに思います。あなたのコメントとともに、メール本文にテキストとして引用しつつ、出典を明らかにしててお送りください(不便をおかけしますが添付ファイルおよびHTML形式では受信できません)。


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